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子供の奪い合い

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1 背景

子どもの奪い合いというのは、家庭の紛争でももっとも当事者にとってつらいものです。代理人弁護士にとってもつらい事件です。

当事者夫婦は何かの理由でうまくやっていけないけれど、いずれも子供にとっては大事な存在です。いずれからも愛されて子ども育つのが一番ですが、夫婦の不仲ではなかなか協力体制が構築できません。

わが国では、離婚後は、単独親権制度がとられており、離婚時に片親を親権者と決めなければならず、それが戸籍に記載されます。

親権を失った親はどのような権利を有するかというと、子と面会する権利はあるのですが、それが権利というものであるのかも争いがあります。子の権利のために反射的に親が子に会いたいということもできるだけであるという考え方もあります。

共同親権を離婚後も実現できるのが海外の先進国の一般的な形態になっていますが、日本はまだ離婚後の共同親権については研究会が発足したのみであり、制度としてはありません。

そのため、親権を失って子との関係が断たれるのではないかという親の気持ちを反映して、親権紛争は激化しがちです。しかし、長い紛争は子どもの気持ちも傷づけることが多く、親としてはバランスを取った早期解決がなかなか難しいといえます。

2 親権はどうやって決まるか?

協議離婚の場合には父母の一方を親権者と定めなければならないので(民819条1項)、これを決めて離婚届けに親権者を記載しないと離婚ができません。

この協議ができないときには、家庭裁判所が協議に代わる審判をすることができるとされています(民819条5項)。

現実には、離婚調停で協議してそれでも決められない場合、離婚訴訟で家庭裁判所が決めることになります(民法819条2項、家事事件手続法284条)。もっとも、現実の紛争では別居の期間において子の監護権者を誰にするかという紛争で親権紛争はすでに決着がついていることが多いです。

また、いきなり母親または父親が子を連れて家を出るという連れ去り別居がかなり多く、その場合、連れ去りをされた親が子を取り戻すという形で紛争がすすみます。別の形態では、父や母が家から追い出されて家に入れず、その後子どもにも会えないので、子を引き渡してほしいというような紛争に発展することもあります。

3 現実に親権を取得しているのは、母、父、どのくらいなのか?

2013年のデータでは、全児について母が親権者となるのが84. 2%、父が12.2%です。

複数の子を父母で分けあうという珍しいケースも3.6%もありました(厚生労働省人口動態統計)。

このように85%程度は母が親権者となるので、やはり母が有利と見えるかもしれませんが、15%については父が親権を得て母が親権をうしなっているという数字は驚きでもないでしょうか?

4 親権以外に、監護者も決めるのはどんなときか?

  • 離婚後の単独親権は民法819条が定めています。
  • 819条は以下のようです。

民法第819条
1項 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2項 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。

 

そして、民法766条では監護権についての協議が定められています。

第766条
1項 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2項 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

 

離婚する際には、監護をする人、面会交流、養育費などについて協議で決めることになっています。しかし、監護権者は親権者と別にきめなければならないわけではなく、ほとんどの夫婦では親権だけを決めて、離婚しています。

この766条は2012年の改正で、初めて面会交流、養育費について協議で決めなければならないとされたものです。別れて暮らす親子が面会したり、連絡しあったりすることが面会交流で、養育費が子への経済的支援であり、面会交流は精神的支援となっています。いずれも親子の絆を強めるものとして規定されたものです。が、実際には面会交流も養育費も決めていなくても離婚はできます。離婚届けに決めたかどうかのチェック欄があるだけですので、現実にどういう合意があるのか、公的機関が確認することはありません。

監護者について協議で決められない場合、家庭裁判所がこれを定める(766条2項)とされています。

離婚する際に、親権者と別に監護者を決めることがあります。
これは、親権は父に、監護権は母になどと分ける場合です。

離婚訴訟の判決で、そのように分ける判決が下るのは、裁判所が親権と監護権を分属させるのがふさわしいとした場合のみであり、それはとてもまれなことです。

また、別居している夫婦の場合、監護権の争いがあった場合に、この条文が類推適用されていて、監護者指定の審判がだされます。実務では、ほとんどの監護者指定のケースは、共同親権下にある夫婦が別居している場合です。

離婚訴訟などが進行している場合、親権の結論が判決で出されるのですから、監護者指定の必要が果たしてあるのかは、問題になります。

必要に応じて裁判所が指定をすることもありますが、離婚訴訟における結論との矛盾は避けるべきなので、子の福祉の観点から早急に子の監護者を指定しなければならない場合に限るべきではないかと思われます。

<監護者を決めた判例>

子の監護に関する処分の場合、「子の福祉に直接関係し裁判所による後見的関与の必要性が高く、監護の基本的な事項についても当事者間で対立していて、当事者間で離婚訴訟が係属中でも結論の確定に時間がかかることから、監護者を定めるべきであるとした高裁決定も、あります(広島高裁 平成19年1月22日)。

<監護者を決めなかった判例>

また、これと反対に、離婚訴訟では親権が争われていたケースで、母が監護者に指定されることを求めていたのに、高裁が抗告審で、離婚訴訟が係属中であるので、監護者の指定の審判がなされると、離婚訴訟の判決とで矛盾した判決がなされることもあり得ることを危惧して、「監護者指定の審判を求めることができるのは、子の福祉の観点からして早急に子の監護者を指定しなければならず、離婚訴訟の帰趨を待っていることができないというような場合に限られる」と判断した高裁の判例もあります(福岡高裁 平成20年11月27日)。

5 親権と監護権を分ける場合とは?

離婚後、通常は、親権者と監護者は同一ですが、例外的に親権と監護権の分属を認める裁判例もあります。

そうなると、親権者は子の財産管理権を有して、監護者は身上監護という別の権限を有するのですが、この権限の範囲は民法においてあまり明確ではないのです。そのため、そのような裁判例は多くはありません。

もしも、分属という方法を合意できる場合には、父母双方に養育の共同責任があることが認識できて、よい結果となることもあるでしょう。しかし、判決が出るような場合、夫婦が厳しく対立して子を一緒に育てることができなくなっていることが多いので、判決で分属を命ずることが適切とされる場合は、ほとんどないのが実情でしょう。

そもそも、離婚してからも夫婦が共同監護をしようという合意ができる場合もあります。そのような場合には、判決ではなく和解離婚とか離婚調停の中でそういった共同監護の合意をして、ルールを決めることになります。

夫婦で子の奪い合いが激化して、双方に監護適格が認められて、双方が協力する体制が構築できそうな夫婦であれば、こういった方法が子のためも有益でしょう。

分属が深刻な父母の争いの妥協として利用される場合もあるのですが、お互いが納得しないまま妥協としてこういった合意をすると、後で重要なことの協議ができず別の紛争が起きることもあります。NPOなどの第三者機関を使って面会を実施するなど、紛争が再燃しないような工夫が必要ですし、父も母も過去にあった紛争については水に流す必要があるでしょう(しかし、なかなかそれも難しいこともありますが)。

<母に監護権、父に親権をあたえた裁判例>

長女が9歳で、長男が7歳、二女が3歳の事案でした。
母が監護していて別居している案件ですが、原審は未成年者らの健全な人格形成のため、父母が協力することが可能である場合には協力関係が形成されることが望ましいとしました。

そして、この両親であればそれができるとして、長女と長男については母を監護者・ 父を親権者として分属させました(横浜家裁 平成5年3月31日)。

  • しかし、高裁の抗告審で、
  • 「両親が離婚したとしても、未成年者の健全な人格形成のために父母の協力が十分可能であれば、監護権と親権とを父母に分属させることもそれはそれとして適切な解決方法である場合もあるとしても、先に認定したとおりの抗告人と相手方の性格、両者の関係等に鑑みると、本件において双方の適切な協力が期待され得る状況にあるとは思われず,前記のとおり監護者として適当な抗告人から親権のみを切り離して相手方に帰属させるのが適当であるとは認め難い。そして,先に認定したとおり,相手方と未成年者らとの関係は現在概ね良好であるので,親権者を抗告人と定め,相手方は親権者とならなくても,相手方としては,従前のような面接交渉を通じて,未成年者らに対し愛情をもって接し,良好な父子関係を保つことは可能であると考えられる。」
  • と判断して、子3人について母を親権者として父に親権を認めませんでした(東京高裁 平成5年9月6日)。
  •  
  • 家裁ではせっかく協力ができるとされたのに、高裁ではそれが無理とされたのは残念な気がしますね。

ただし、この事案では、父が母に暴力をふるった過去があり、そういった父母の争いが子に悪影響をおよぼしてきたこと、父が高額所得者なのに通常の金額よりかなり低額な養育費しか払っていないことが、影響したようです。

よって、家裁のような判断が維持されるような事案も十分あると思われますし、この事案の裁判所のように、画一的に一方に親権を与えるのではない、踏み込んだ判断がされることは望ましいように思います。

現実には、NPOなどの第三者機関に父と母の協議の間に入ってもらうなどの工夫があれば、協力関係が形成できる夫婦もかなり日本にもいるように思われますが、そういったサポートを法的に組み込んだ判決をだすことが実務的にできないという制度の問題もあるようです。

<分属が命じられた裁判例>

女の子(6歳)と男の子(3歳)の父が親権者とされて協議離婚していた事案、母が子を監護していた事案でした。

家庭裁判所は、母の親権者変更の申立てを却下して、父からの引渡請求を認めました。

しかし、高裁は抗告審で、親権者変更申立てには監護者指定の申立ても含むといえるからと、監護権について判断をしました。そして、親権者の変更は認めなかったのですが、子の情緒の安定と父と関係は面会が期待できるということから、母を監護者としたものです(仙台高裁 平成15年2月27日)。

6  裁判所は、親権者や監護権者については、どんな基準で判断するのか?

別居中の父母間では、監護していない親(連れ去られた親であることが多いです)から監護者指定を申し立てる場合が多いです。

このときは、「子の引渡請求」と併せて申し立てがされます。
なぜなら、監護者になっても引き渡してもらえないと子との同居が実現しないからです。

また、保全処分も一緒に申し立てることが多いです。保全処分というのは簡単に言うと裁判所が早く審理をしなければならない事案のことです。つまり、子の引き渡しを急いで決定してください、その必要性があります、仮の決定を先に出してくださいとお願いするケースが、保全申立です。

そうすると、本案と保全処分が同時に発令されることもありますし、先に保全処分の、仮の決定が先にされる場合もあります。

親権者・監護者の指定で考慮される事情や基準は、子に関するいろいろな事情になります。それを総合的に判断して決めています。

そのときの重点項目は「子の利益」です。

しかし、子の利益といっても、3歳の子の利益と10年後の子の利益は違うし、家族ごとの特性まで裁判所がきちんと理解して結論をだすことは、なかなか難しいというのが現実です。

夫婦が裁判で厳しく争っている場合、父も母も弁護士を雇って高額な費用をかけて子を奪い合っていますから、二人とも愛情も強く、監護の能力も高いことが多いです。

当事務所で扱う例も、いずれも監護適格があるという結論であることがほとんどです。

そうは言っても、我が国の民法では離婚時の親は一人だけが親権を取得できますから、裁判所は「引き分け!」というのが言えません。いろいろな事情を拾って検討をして、結果をだします。

この事情を拾ってくる作業のほとんどは、家庭裁判所の調査官がする調査でして、それを調査官が報告書にまとめます。

裁判官はそれを読んで結論を決めるのです。

7 親権・監護者の決定において検討される父母の事情とは?

・ 監護の能力や態勢
・ 監護の実績(これまで継続的に誰が監護をしていたのか?)とか主の監護者は誰であったのか?
・ 子との情緒的結びつき・子への愛情
・ 親の就労状況・経済力
・ 親の健康・性格・生活態度
・ 暴力や虐待はなかったか
・ 住むところの環境や養育の環境
・ 監護補助者による援助が必要か?
・ 監護補助者に任せきりにしてはないか?
・ 監護開始の状況の違法性の有無(暴力で奪取していないかなど)
・ 面会交流についての許容性

このような多様な親に関する事情が検討されて、決定されます。
暴力や虐待については、対立構造なので互いに相手に虐待的な行為があったとの主張がなされることが多くありますが、客観証拠がないことが多く、単に夫婦が高葛藤であることが認定されていることが多いようです。

8 親権・監護者の決定において検討される子に関する事情とは?

・年齢や性別
・心身の発育状況
・環境への適応状況
・監護環境の継続性・子の変化への適応性
・子の意思や子と父母・親族との情緒的結びつき
・兄弟姉妹との関係

子に関する事情も上記のような事情が総合的に検討されます。

9 親権判断や監護権の判断で、重視されている事情は何か?

裁判所の判断では、「監護の実績(継続性)」や「主たる監護者」が重視されています。

この点は、批判が多いところです。

なぜなら、連れ去りをさえた場合でも、その事情はほとんど連れ去りをした親にとってのマイナス事情とされないからです。そして、連れ去りをした親が従前、育休をとっていて7割以上の監護養育をしていたとか、専業主婦で9割以上の監護養育をしていたなどという、時間での監護実績が多い方が親権を取得するからです。

もっとも、子の気持ちはかなり重要視されています。特に子が大きくなるに従ってその傾向は高まります。

従前は、乳幼児については母親が重要であるという考えもありましたが、そのような女性が有利な判断はあまり見られなくなっています。「母性的な関わりを持つ人が補助者」にいるような場合には、それはひとつのプラス要素となるようです。
よくみられるのは、父に親権があたえられるときに、祖父母がそういった役割をはたしていることが評価されている場合ですね。

母親が親権・監護権を取得できる割合が90%に近いのは、別居する前から主として母親が養育を担っていたことが多く、その後の別居後も父が家を出たり、子が母に連れ去られてしまって、母が養育を継続しているから、継続の観点から母が選ばれるからです。

決して、父が監護適格がないという判断がされた結果ではありません。

10  連れ去りがあって子が奪われても、監護権・親権は連れ去った親がとれるのか?

連れ去りは、母が子を連れて家を出るという場合が多いのですが、最近は父や祖父母が連れ去りをすることも多いです。

連れ去りは毎年増えているようで、ご相談数が増えているように思われます。

子の監護を開始したときの違法性という点で、連れ去りが違法であったのかも、監護者・親権の判断ではひとつの要素とされることもありますが、多くの場合はそうではないです。

しかし、連れ去りの当時、暴力を用いて奪ったような場合には、「違法な奪取」であると評価され、保全処分において子の引渡しが認められることが通常であるといえましょう。

たとえば、突き飛ばして子どもを奪って連れ去っていったというような場合です。本人とか親族がそういうことをすることが多いでしょう。
また、すでに別居している段階で、子どもを奪うと暴力を用いなくてもそれが違法な奪取と考えられてしまうことがあります。

「それなら、先に連れ去ってしまったほうが勝つのでは?」
「早いもの勝ちなんて、ひどい!!」

と憤慨している当事者が現実に多いのは事実です。

これは、日本では離婚したら単独親権となるという制度であるので、子の奪い合いがおきやすく、かつ、子がいるのに別居をする場合のルールが確立していないことが問題だと思います。

本来なら、子どもがいる家庭で別居をする場合、親子の関係を断絶させないように第三者が間に入って別居後の子と親の関係についてルールを決めることができればよいのですが、そういう制度がありません。

そして、別居時に暴力など用いないで「一緒に家からいなくなる」という「連れ去り」をしても違法という評価は、それだけではされないという判例が積み重なり、未成年者奪取にもなりませんし、不法行為であるという評価にもほとんどなりません。

また、それまで主に養育を担っていた親からすれば、仮に子どもをおいて家を出れば子を引渡してもらうには、裁判所の保全事件を用いなければならず、弁護士費用も多額にかかりますし時間もかかるので、そうでれば置いてはいけない・・・という判断になりがちです。

もちろん、話し合いをしてから別居をするという合理的な夫婦もいますし、互いに代理人が入って子どもがびっくりしたり、ショックを受けないように別居を開始することも不可能ではないのですが、夫婦相互にルールを守るという人格や態度が必要で、現状ではなかなかそういうケースは少ないのです。残念なことですが・・・。

11 暴力など使った違法な奪取で、子を連れ去られたらどうなるのか?

裁判所としては、奪取が違法だという場合には、その後監護が継続していて、子どもが安定して暮らしていても、通常は、それが違法でなくなると考えていません。

もっとも、母が別居していたのにやはり子どもと住みたくなって、家から子どもを連れ去ってしまい、その後、お父さんとの交流が代理人弁護士を介してきちんとできているような場合、判断は異なることもあります。

何といっても、子どもの事件はケースバイケースなのです。だからこそ、代理人となる弁護士にとっては「難解な事件」「やっかいな事件」になります。

裁判所の調査官は、最終的に子どもがどこに誰と住むべきかという観点から事件をみますが、一方で、裁判官の方では、暴力的奪取とか、すでに別居して安定した暮らしをしていたのに奪取したという違法といえる行為を追認してよいのか、という観点もあるので、絶対に子どもの引渡しを認めるか・・・というと微妙なのです。

12 子どもの奪取・連れ去りの判例はどうなっているのか?

子の連れ去り・奪取の事案は増えていますが、家事事件のため審判結果は非公開です。

また、実際には審判の途中で和解的に解決することが多いです。
これは、審判廷で和解を成立させて、調停に移行させて調停調書をつくるという技術的方法で行います。慣れた代理人弁護士をつかっていると、こういった解決を実現することもできます。

もっとも、和解的解決は親が互いに、子どもために譲歩して、紛争を終わらせようという気持ちがないと実現しません。代理人弁護士の力だけでどうにもならないのです。

以下に、判例の動向を公表された判例で追ってみます。

<東京高裁の判例:昭和56年5月26日>

別居して、3年間、母が11歳の長男、父が8歳の次男を育てていた事案。
監護の実績・継続性を尊重して、長男は母、二男は父を親権者としています。

この事案では、家庭裁判所は二人の子の親権者をいずれも母としていました。
高裁は、より監護の継続性を重視したといえますね。

<広島高裁の判例:平成19年1月22日>

これは、離婚訴訟中の事件ですので夫婦は別居していたものです。
3歳の子らについて、母が監護者指定と子の引渡しの申立てをしていました。
「将来の人的な養育環境が不分明なまま現在の監護状況を変化させることはいたずらに監護の安定性を欠くことになる」「相手方〔夫〕の母〔祖母〕によって母性的な監護もなされている」とし、抗告人が母親であるという点が判断を覆すほどに重視すべきものではないとして、父が監護者と指定されています。

<東京家庭裁判所 平成22年5月25日>

母が、子を連れて別居した事案です。子は、9歳でした。
母の子に対する虐待の疑いや母の病気等を父は主張していました。
子は父に「会いたくない」「叩くから。暴れそうで」等と述べていたのですが、試行面会では自然に交流することができました。

審判では子が「心の根底には父に対する愛情や信頼を有しているものの、現在は、両親の不和という心理的に辛い状況の中にあって、過去に父から受けた体罰の記憶等の影響から、父に対して非常に複雑な感情を持っていることがうかがわれる」とされました。

母は、病気であることは認められたのですが、「十分な監護の実績及び継続性がある」「自己の病気について十分な認識を持って医療措置を受けている」などから、監護適格はあるとされて、父は監護者に指定されませんでした。

<最高裁の判例:24年6月28日>

夫婦と長男(8 歳)と二男(6 歳)が夫の実家で夫の両親と暮らしていたのですが、夫の不貞疑惑が原因で別居していたところ妻が子らを連れて出ようとし夫の両親に反対されて単身で出て実家へ戻っていました。そして妻から子らの監護者指定および引渡しを申し立てたという事案です。別居までの7年間は子らの監護は主として主婦である妻がしていました。

子らは父母いずれにも親和しており有意な差はないとされ、長男が父方での居住を望んで次男は母方での居住を望んでいたので、原々審は妻の申立てを認容したのですが、抗告審は現状の監護状況に問題がないこと等を根拠に原々審を取り消しました。 妻は、特別抗告したのですが棄却されています。

<大阪高裁の判例:平成28年8月31日>

これは、高裁が家庭裁判所に事件を差し戻して、もっときちんと審理をしなさいとした事件です。

母が別居前の主たる監護者であったので、その監護に問題があったか、母が予定している監護態勢と父の現状の監護態勢のいずれが子の福祉に資するかについて更に審理を尽くすべきであると、高等裁判所の裁判官は考えたからです。

原審(もとの裁判所)の奈良家庭裁判所は、平成28年5月31日に、母である申立人が父から自宅を閉め出されたことを認めていたものです。

しかし、子を父の実家に連れて行きそこで生活を始めたものの、母がそれまで子を監護してきたものの、長男と二男を自宅に残して複数の男性と会うために夜間外出や外泊を繰り返していたことから、母の監護は適切ではなかったと判断しています。そこで、そういう監護に問題があって別居したのだから、父の監護の開始について違法性はないとしていました。

<大阪高裁の判例:平成30年3月9日>

これは家裁では、現状維持を重視して父に監護者が指定されていたのに、高裁でその決定が取り消された事案です。

母は子の監護者を自分にしてくれと申し立てたいたのですが、すでに協議離婚はしていたというケースになります。離婚してしまっているところが、すこし珍しいですね。

高裁では、協議離婚をした時点で子の監護者について協議が調っていなかったと認めて、母は一貫して未成年者の監護を父に委ねることを認めていなかったと、認定しています。

そして、子の引渡しは父がゴールデンウィークに子を引き渡すと言って、子を引き取って監護する意図を隠したときに行われていて、「著しく相当性を欠く」との判断になっております。

そして、子の年齢に照らし、監護者を母と指定するのが相当だと判断したのです。

家庭裁判所の原審では、離婚時の監護者の協議はできていなかったという点の認定は同じでしたが、父は、子の監護の大部分をその妻に委ねつつも、父自身もよく交流し、監護方法等に特段問題はなく、子は父とよく親和しその妻や妻の子との関係も良好であって、父による監護下の生活にすでに馴染んでいることを重視して、監護者を母と指定するべきではないとしていました。

高裁は、父が「ゴールデンウィーク期間中には返還する」という虚偽の説明をして子を連れ去って引き渡さなかったことが、「態様が著しく相当性を欠いている」と判断していますので、この点が家裁と判断が大きく割れました。

そして、このような相当ではない方法で一方的それまで主たる監護者であった母と切り離されたので、子の福祉の見地からも問題が大きいとしたのです。

平成29年に協議離婚している夫婦の事案で、高裁決定は平成30年3月ですので、おそらく1年程度は子の監護はすでに父がしていた事案であろうと解されます。家裁の決定は29年10月31日ですので、10か月も経過していないのに「それまでの監護実績ではなく、継続性を非常に重視した」決定が出ていたのは驚きですが、このように継続性と従前の主たる監護者がだれであったかという事情の間で、裁判所の判断が揺れ動いたことが見て取れます。

監護者の指定・子の引渡しの事案が、裁判所にとっても悩ましい事件であることは、これでもよくわかりますね。

ゴールデンウィークに戻すという嘘を父がついていなかったら、このような結論にはならなかったように思えます。夫婦が騙しあった方法で別居を開始するのは、絶対に避けるべきです。

やはり、子どもが可愛いと思ったら、なるべく早くから別居してからのルールを冷静に話しあって決め、互いが子との関係を維持し続けられる土台をつくることが本当に大切だと、認識させられる事案です。

当事務所で取り扱った事案でも、それまでの主たる監護者であった母が騙されて父に子を連れ去られて祖父母などの手を借りて同居して育て出してしまったというような事案では、子の引渡しを迅速に申し立てれば家庭裁判所から裁判所から引渡しを短期間に認められています。

なお、当事務所ではそういった事案では、事件決定が出るまでの期間も子との面会を実現できるように、最大の努力をしています(引き渡し後にも相手親との面会を実施していただくようにご理解を頂き、なるべく片親疎外にならないようにしております)。

13 親権の判断・監護権の判断では、子の意思はどのくらい尊重されているか?

親が子の奪い合いをしている時、子の意思はどのくらい尊重されるのでしょうか?

家事事件手続法では、家庭裁判所が(年齢に関係なく)子からの意見の聞き取りのような適切な方法で、子の意思を理解することをもとめています(65条)。

そして、子の年齢とか発達に応じて、その意思を尊重しなければなりません。

特に、子が満15歳以上の場合、家庭裁判所は、親権者や監護者の事件では、子の意見を聞くことが必要とされています(人訴法32条4項・家事事件手続法152条2項と169条など)。

また、子に代理人を付ける、子の手続代理人の選任もできますが、現実には子が費用負担をしなければならないという建付けであることもあり、ほとんど使われていません。国費で任命できないと、なかなか実用は困難であろうとおもいます。

調査官の調査では子の意見が聞き取られますので、その意見は尊童し配慮されています。

しかし、子がすでに連れ去りや別居によって同居親との暮らしを始めている状態で子が、本当に自分自身の利益になる決断をしているかは、疑問がある場合もあります。

また、子が嫌がっている状況で子の引渡しを命じても、強制執行がうまくできないという実務的問題もあります。

子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)12条では、子を権利の主体として捉えています。

そして、自己の意見を形成する能力のある子に、意見表明権を保障すべきことを明言されていますので、子の意見表明を受けて子の最善の利益を保障することは、日本の家事事件でも必要なことです。

実務的には、10歳前後以上であれば意思を表明する能力に通常は、問題はないと考えられます。もっとも、個人差はあります。

より小さい子でも、意見表明をしている場合、その意見に反した結論をだすのは裁判所としては躊躇が見られるようです。

従前の主たる監護親であった親に、別居してから子が急に拒絶反応を示す場合は、よくあるのですが、そういった場合はすでに一緒に住んでいる親への忠誠心が作用していることも多く、そういう拒絶反応になってしまった理由を理解する必要があります。

そういう意味でも、不適切に主たる監護者から連れ去りがなされた場合、そういう拒絶反応が形成される前に、素早い法的アクションを起こしたほうがよいでしょう。

14 親権・監護権の紛争では、母親が優先されているのか?

子が乳幼児である場合、母が監護養育するのが不適当である特段の事情がない限り、母を親権者と定めて、監護養育させることが子の福祉に適合する、という考えは、従前はありました。

しかし、幼児期において母の愛情と監護が父の愛情と監護より重要であるということは、科学的に証明されていませんし、また父母の愛情の重要性を比較することそのものが、おかしなことです。

今でも、子が幼いと「監護の継続性」を重視せず、母に監護権や親権が認められやすい傾向があるかもしれませんが、それはおそらく別居前に主たる監護者として子との良好で情緒的関係が確立していたことを重く見ているからでしょう。

単に母を優先することに対しては批判も多く、母親優先の結果だけで、母に親権や監護権が認められるという判決や審判はほとんどないように思われます。

もっとも、監護の環境として、「生物学的な母」ではない他の誰かが「母性的な関わり」をもっているかどうか、ということが一つの事情となることはあります。たとえば、父に引き取られていたような事案でも祖母が家事を担当して子らの食事を作り関係を密に構築しているような場合、そのような存在がないよりは、監護の環境はよいということになるでしょう。

<東京高裁:平成10年9月16日>

人工授精による子の交互監護事案で、母性優先を採用したようにみえる高裁決定がありますので、紹介します。

これは、人口受精による子の親権者の事案で、子と父の間には真実の親子関係がないという事案でした(精子は第三者が提供しています)。いろいろな意味で、興味深い事案です。

母と父は、調停で離婚をし、子(5歳程度)の親権者については審判で決めることとしました。これ自体がかなり珍しいことです。

母は、人工受精子で父と子の間に真実の親子関係が存在せず、嫡出推定が働かないので、法律上当然に、父が親権者に指定される余地がないと主張していました。

しかし、裁判所は、夫の同意を得て人工受精が行われた場合、人工受精子は嫡出推定の及ぶ嫡出子であるとしました。よって、通常の子と同様の扱いをするということです。

そして、人工受精子の親権者を定めるに場合、子が人工受精による子であることを考慮する必要があるものの、それによって当然に母が親権者に指定されるべきであるとまではいうことはできないとしました。

つまり、父子関係に生物学的親子関係がないことは、「考慮すべき事情の一つ」としたのです。

そして、子の福祉の観点から、監護意思、監護能力、監護補助者の有無やその状況、監護の継続性などを、総合的に検討して決めるべきであるとしました。

原審では、父が親権を得るという決定が出ていたのに、高裁はそれを覆しました。

双方の態度、環境、子の受入れ態勢等について、優劣はないとしたのですが、子の年齢からして、母親の愛情と配慮が必要不可欠であって、子は出生以来、主として父の家で生活してきているものの週末は母と暮らしており、監護の継続性という点で父の監護の現状は固定したものではなく、子の生活の場を母のもとに変更することによる弊害がないと、したのです。

継続性・現状維持と母親優先の両基準の間で、家裁と高裁の判断が分かれたように見えます。

もっとも、高裁は「母親との安定した関係の重要性について」として「一般的に、乳幼児の場合には、特段の事情がない限り、母親の細やかな愛情が注がれ、行き届いた配慮が加えられることが父親によるそれにもまして必要であることは明らかである。」とまで、母親優先を明らかにしており、時代錯誤という批判もありえるようにみえます。

さらに、「原審判は、「母親」というのは、「生物的な母親」を指すのではなく、「母性的な関わりを持つ対象となった養育者」といった広い意味もあり、相手方は、未成年者との母性的な関わりの代理に努力してきている、と述べている。一般的には、母親に代わる存在と適切な関係が築かれていれば、養育者が絶対的に実母である必要はないといえるであろうが、未成年者の年齢からすれば、相手方が母親の役割を担うことには限界があるといわざるをえない。」「相手方の母親はそのような役割を十分に果しているとは認められない。」として、祖母が母性的役割を果たすことはありえることを認め、また、父が母に代わる存在になりえることも認めています。

なお、この夫婦は合意によって、金曜日の夜から月曜日の朝までは母宅で、その余は父宅でそれぞれ養育する取り決めをして実行していたようです。週末は母と過ごしていたようですので、監護実績も母にもかなりあった事案であり、監護の継続性より母性を優先したとまでは言えず、父母の適格もほぼ同じで判断が難しかった事案といえましょう。

このような場合、夫婦で和解的に話しあって親権者を決め、共同養育を実施する可能性もあったものと思われ、審判決定がどうして必要であったのか背景が分かりかねますね。高裁の決定の後、どのように父子関係が構築されたのか、興味深いものの、それを知ることはできません。

15 裁判所がよく言及する主たる監護者というのは、どのような事情なのか?

裁判所実務の現状では、子が生まれてから誰が主たる監護者であったかを認定してそれを重視する傾向があります。
親との継続的な関係が子の成長に大切であることが背景にあるのでしょう。

まず、子の出生から「主たる監護者は誰であったか」を検討して、

別居から現在までも主たる監護者が子を監護している場合には、そのまま現状維持とする。
主たる監護者でなかった者が現在監護するに至っている場合には、過去の監護に 問題がなく態勢が整っている場合には、子はその主たる監護者へ引き渡す
という傾向です。

でも、これも絶対的なルールではありません。

特に②の場合には、現状の監護状況や子と同居親の愛着形成、子の意思にも影響を受けます。

また、そもそも、主たる監護者が父母のいずれか、わかりにくいことも多いです。

仮に、養育に係る時間は父が4、母が6であっても、子との関係性が母子の方が強いとは言い切れません。

多くの場合、子は双方と強い愛着を形成しています。パパもママも好きなのです。
裁判所はそういった状況で、難しい判断をしなければなりません。しかし、決定に至るまでに協力的関係が構築できて、子との交流時間が同居していない親にもとれていれば、裁判所の決定に至る前に和解的な解決(調停成立)ができるという場合もあり、子のためにはそのような結論が本来は望ましいように思えます。

しかし、現状の日本では、子どもの気持ちを汲んで協力体制を構築するための親のサポート体制も不十分で、紛争が激化しやすいようです。

「主たる監護者」は、現在の家庭裁判所では、よく判断のキーワードとして用いられています。

比較的新しい判例を少し見てみたいと思います。

<さいたま家庭裁判所川越支部 平成24年4月26日審判>

子が出生してからこれまで、一定の地に住んでいることから「監護の継続性という視点」からは、父の親族が回りにいる中で成長してきており「現時点においても、XX地に生活をしていることを考慮しなければならない。」と監護の継続性を検討したうえで、「主たる監護者である申立人の下で継続的に養育され、YY市での生活も平成22年5月から平成23年8月まで続き、安定していたことに照らすと、父である相手方よりも母である申立人の監護の継続性を優先させることが子の福祉に適うものとするのが相当である。」として、母への子の引渡しを命じました。

この事件は、平成23年8月7日が面会交流の予定の日であったのに、父が自宅に連れ帰ることを計画してて母の抵抗を排除して、子を無理矢理車に乗せて連れ去ったという経緯がありました。このような無理やり連れ去ったという経緯がなければ、それまでの主たる監護者が母であっても場所的な監護の継続性が重視された可能性もあります(この事件では母が専業主婦でしたが、母もた仕事を持っていた場合にはまた別の結果もあり得るでしょう)。

事件を客観的にみると、母の勝手な連れ去りに対して父と親族がやり返したというようにも見え、互いの親類も巻き込んで子どもも巻き込まれています。まさに「こういう事件は最近多い。子どもが巻き込まれてかわいそうだ。」と弁護士なら思うような事件形態です。

この事件では平成23月9月28日、申立てから約1月後には、子の監護者が母と仮に定められ子の引き渡しの保全決定も出ており、子の引渡しを求める審判前の保全処分の手続は迅速になされています。これは、おそらく面会交流をすると見せかけて子を連れ去った父の連れ去りの違法性が背景にあり、裁判所が子を母に戻すことが緊急課題と考えた結果でしょう。しかし、執行官の段階で長男は執行官に対しXX市から出たくない」と述べたことから、執行手続は不能として終了したとのことです。

このような事件では、子が大きく巻き込まれ、ほんらい親に愛されて育つべき時期に精神的に大きな葛藤を経験しているようにみえます。紛争が激化する前に両親が子の長期的利益のためにどうしたらよいのか、冷静に話し合える場があることでかなり防げるように思われ、この未成年の子がこの紛争で深く傷つかないとよいなあ・・・と思わせる事件です。

この事件では執行ができなかったことから、裁判所はこのようなコメントを付しています。

「現在の状態は、相手方の違法な未成年者らの連れ去りによって作出されたものであり、当裁判所による審判前の保全処分が発令されたことに照らしても(保全処分の執行が不能と終わったことについて、相手方の妨害があったわけではない。)、未成年者が現在川越で生活していることを重視することはできない。」

  •  
  • <京都家庭裁判所平成29年2月17日審判>
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この事案は別居している妻が申立てたもので、自分を監護者と指定すること父からの子の引渡しを求めた事案です。

裁判所は、別居後の父による監護養育状況が子の福祉の観点から「不適切ということはできない」としました。

裁判所は判断基準は「同居期間中の監護養育状況,監護養育に対する意欲,別居後の監護養育の環境,監護養育に対する親族等の支援状況,未成年者の年齢,心身の発育状況,父母や監護養育を支援する親族らとの情緒的結びつきなどの諸事情を総合的に考慮」するべきとして、子が出生から父母の別居までの7年間、一貫して母である申立人により監護養育されて「申立人が主たる監護者であることは明らか」としました。

そして、別居している母との試行的面会交流や任意に実施されてきた面会交流の際の様子から、「母子間の情緒的交流が十分に図られ,深い精神的結びつきが形成されてきていることが認められる。」ことを認め、母が今後は正社員になって収入を安定させること、実母の監護養育の援助を受ける予定であり、子の監護養育について強い意欲があるなどから、母への子の引き渡しを認めました。この事案では母の不倫(不貞行為)が判明したことから夫婦仲が悪化して父が子を連れて自宅を出てそれなりの監護環境を整えていた事案であり、父の連れ去りについては違法であるというような判断はされていません。

また、父がレストラン経営をしており、監護環境も整えていたので、従前の父子関係がより強ければ違う結果になった可能性もある事案でした。

<大阪家庭裁判所 平成29年10月31日審判>

母が、子の監護者を自分に指定することと父から子の引き渡しを求めていた事案。

監護権者に関する合意の有無が問題となっていましたが、当事者間のやりとりなどから、離婚時に当事者双方が離婚後も母が未成年者を監護養育することを合意したとは認められないとしました。そして、父は子の監護の大部分を現在の妻に委ねているものの、父自身も未成年者とよく交流し監護方法等に特段問題はないこと、父子の親和もあり、今の妻と子との関係も良好、父による監護下での生活によく馴染んでいるなどから、母と離れて生活していることが子の悪影響を与えていることは窺われないとし、監護者を母と指定するべきとは認められないとして申立てを却下しています。

子事件では、平成29年にすでに親権者を相手方と定めて協議離婚がされており、同年のゴールデンウィークには、母のもとに返すとの約束で子を父に引き渡したが、父はゴールデンウィーク後も子を返さなかったという経緯がありました。

また、この事案ではこのゴールデンウィークまでの期間は一貫して母が主たる監護者であることも認められていました。

裁判所はこの点、それまでの期間母が「監護養育の大部分を担っておりその監護状況に特段問題がなかったこと、申立人(母のこと)が予定する未成年者の監護態勢にも特段問題が見られないことを十分考慮しても、未成年者を申立人が監護する方が、相手方が監護する場合に比べて、子の福祉に適うことが明らかであるとまで評価することは難しい。」と述べて、母を監護者と指定していません。

民法には親権変更の手続は定めがありますが、監護者を離婚後に裁判所が決めることはもともと予定されておらず(そういう意味では、離婚前もそもそも民法ではそのようなことを裁判所が決めることを予定していなかったと思われます)、法の制度がないため、裁判所は明確に母の監護が優れている必要があるとしました。

しかし、事実認定は高裁で覆りました。即時抗告後の大阪高等裁判所決定では、離婚をした時点で監護者について協議があったのかという点について、母が一貫して父に委ねることを容認していなかったと認定されました。また、ゴールデンウィークにおいて父が自分が引き取って監護する意図を隠して子の引渡しを受けたことが「著しく相当性を欠く」とされています。そして、子の「年齢に照らせば、監護者を母と指定するのが相当であり,未成年者の福祉に資する」として、母の申し立てが認められました。

家裁では親権が協議離婚で決められた以上、監護権についてはその協議においてすでに父が持つことが合意されていたであろうという判断であり、高裁は協議離婚時から監護権はどうするかを保留していたという判断のようです。昨今は、メールやラインなどのやりとりから当事者の合意があったのかが比較的明らかなので、上記のような事実認定を覆す結果になったと思われます。また、GWにおいて相手を騙したことが父側にかなり高裁では不利になっており、親権紛争では始終正直なやりとりをすることが必要であることがわかる事案です。

このような監護の方法で争っている夫婦がきちんと冷静に話し合え、その協議結果をお互いが守ると信頼できる制度の構築が必要であると思われますがわが国では残念ながらそういった子の福祉の観点からの制度ができていません。本件の子らがこの事件のあと父母との関係をきちんと構築できていることを祈りたくなる事案ですね。

<奈良家庭裁判所 平成28年5月31日>

母が男性との交際のために外泊等をしていることから、父が母を自宅から閉めだし、子らを実家に連れて行きそこで生活を始めた事案です。

そこで、母が父に対し未成年者らの引渡しを求め、監護者を自分に指定することを求めましたが、家裁は、子らの主たる監護者は母であったが子らを自宅に残して,複数の男性と会うために夜間外出や外泊を繰り返していたことからすれば母の監護は適切さを欠くものであったとし、父の監護の開始に違法性はなく父母による監護補助に特段問題があるとは認められない、父の現状の監護態勢を変更する必要があるとは認められず維持することが子の福祉に資するということから、母の申立てを却下しました。

これに対して大阪高裁は、差戻の決定をしています。別居前の「主たる監護者」である母の監護に問題があったのか、母が監護者と定められた場合に予定している監護態勢と父よる現状監護態勢のいずれが未成年者らの福祉に資するかについて更に審理を尽くすべきという理由からです。

おそらく自宅を締め出された妻である母が異性と会っていたことに拘泥した家裁に対して、それによって適切な監護ができていなかったのかについて審理を適切にしないままであったこと等から、差し戻されたものと思われます。

この事件の母は「死にたいいやや。こどもらもすてたい。」などと問題となるメールを送るなどもしており、慎重な判断をするべきであるということから差し戻されたようです。

女性の不倫を起点として子の奪い合いが起きることも昨今増えています。そういった場合、主たる監護者であったとしても、不倫をしていたことで当時の監護が不適切であったのか、今後の監護計画がどうなっているのかが、厳しく裁判所に問われ、母であって主たる監護者であっても、簡単に子の引渡しは認められない傾向があります。

16 片親が面会交流を許容しているフレンドリー・ペアレントであることが、どのくらい結果を左右するのか?

片親が相手と子の面会交流を認めることができ、元夫婦の間の葛藤や悪感情と切り離して子に他の親の存在を肯定的に伝えることができるかという点が、次第に親権・監護権の適格性の判断でも重視されつつあります。

しかし、これが決定打になるという段階にまでいたっていないようです。しかし、連れ去りの後、執拗に面会を拒否するような同居親には、監護権の適格に関わる問題であるから、面会交流をきちんと実施するように保全事件の審理中に裁判官からおことばがあるような場合は見られます。

最高裁判所が離婚調停に臨む当事者が見るように作成した動画では、子どもを両親の争いに巻き込まないようにというメッセージとか、面会交流が離れて暮らす親から子どもが関心が注がれ愛されていることを実感できるようにするために重要であるというメッセージが表明されています。

また、親の協力が子の将来に必要であることを頭に入れて、離婚前の協議をする、解決を目指して話し合うようにという呼びかけも含まれています。

このように親の協力が必要であるという観点からは、フレンドリー・ペアレント・ルールがもっと活用されるべきであろうと思います。現在、監護者として指定される場合の補完的事情としてしか利用されていないのは、大変に残念です。

もちろん、子へのDVのある事案では面会については子の利益のために相当な配慮が必要となります。

<フレンドリー・ペアレント・ルールについて言及した判例>

親権変更の事案ですが、かなり明確にフレンドリー・ペアレントであることが有利な結果を導いたことを明らかにしている判例がありますので、紹介します。

仙台高等裁判所 平成15年2月27日の決定です。

この事件では、子どもは、両親に対する忠誠心の葛藤から(父母の対立に巻き込まれたストレスから)情緒的安定を失ってしまって、じんましんと嘔吐の症状が出ていたという、その子どもにとっては大変にかわいそうな状況となっていたようです。

(子がストレスから体調を壊すことはよくあります。だからと言って面会をしないという選択肢は、長期的には子のストレスを増やすことになることが多く、ストレスを与えないで面会ができるのが一番なのですが、夫婦はお互いのせいで子が体調を崩したと非難することが多く、これを解決するのは難問であることが多いです。)

裁判所は「父との面接交渉について柔軟に対応する意向を示している母に監護させ、父に面会交流をさせることで、子の精神的負担が軽減できるとし、父母双方との交流ができる監護環境を整えて、子の情緒の安定、心身の健全な発達を図ることが望ましいという判断をし、母を監護者として指定しました。同居していた父は、子の引渡しを命じられました。

17 兄弟の不分離について

一般的には、兄弟姉妹を分離父母のいずれかと別れて、兄弟姉妹とも別れるという経験をさせることから、子には好ましくないと考えられています。

しかし、訴訟実務ではあくまでも判断の際の事清の1つであって、絶対的ではありません。

親権者の母が父に対して子2 人についての子の引渡しの請求をした事案で、小学1年の子が父との生活を望んでいたのでその意思は十分考慮する必要はあるとしつつも、小学1 年で可塑性がある上、兄弟がそろって母が養育監護することが好ましいと判断しています。

もっとも、この不分離の原則は、子の年齢が上がるほど あまり重視されないようになります。

東京高裁の昭和56年5月26日の決定では、11歳の男子は母、8歳の男子を父と親権者を分けています。

この事案は、子が大きくなればこの意思をより重視する判断になります。子はそれまでの環境を変えたくないと意思を表示することが多いのですが、片親との関係が悪い場合にはそのような事情を説明する場合もあります。

18 連れ去り方法などの「奪取の違法性」についてどう判断がされるのか?連れ去りは違法とされないのか?

一方の監護が始まっている時期に、無断で子を連れ去ること、面会交流の ために引渡しを受けた後に子を返さないこと、同居親に対して暴力をふるって実力で子を奪うこと、こういう場合は、親による子の奪取は違法だと日本でも解釈されています。

最初の連れ去りは違法ではなく、その後の子の奪取だけが違法とされることについては、批判もあるところです。

裁判所は、奪取が違法であった場合、奪取の後で子が奪取した親の下で安定した生活を送ってもそれは違法の行為の結果であるとして、原則として追認できないとしています。

奪取を追認するようなことが許されるのは、特別の場合のみでしょう。

また、違法な奪取は親権者としての適格性判断でも重要な事清とされています。妻による違法な奪取に協力したカウンセラーに対しては 父からの請求により30 万 円の慰謝料を認めた事案もあります。この判決は「子の引渡しの手段としては、本来家事審判等の法的手段によ るべきであって、実力行使による子の奪取は、その子が現在過酷な状況に置かれており、法律に定める手続を待ってい は子の福祉の見地から許容できない事態が予測されるといった緊急やむを得ない事情のある場合を除いて許されない」と述べました(名古屋地裁 平成14年11月29日)。 また、奪取の態様によっては犯罪ともなりえます。

裁判例の積重ねによって、何が違法な奪取化が明確になり、違法な子の奪い合いが少なくなる傾向はあるようです。

母が子三人を連れて別居し父と別居し手いた事案で、父が母に無断で子らを保育園から自宅に連れ帰ってしまい、 母は家裁に子の引渡しを申し立てるとともに離婚訴訟を提起したという事案です。

仙台高裁は、父が子を無断で連れ去るなどして違法に同居したので、他方が子の引渡しを申し立てた場合、「子の福祉の観点から奪取したものに子を監護させる場合に得られる利益と奪取された親に子を戻す場合の利益を比較して、前者が後者をある程度有意に上回ることが認められない限り、子を引き渡すという基準を示しました。(仙台高裁 平成17年6月2日)。

このように、すでに別居をしていた親からの奪取をした親は、それが暴力を伴わない奪取でも、子の引き渡しを命じられるのが通常です。

<東京高裁 平成17年6月28日>

これは原審の判断を高裁が覆した事案です。

母が、父の暴言や精神的暴力等により、7歳の長男を連れて実家に戻り別居し、父が監護者指定および審判前の保全処 分を申し立てました。しかし、父は、通園途中の長男を待ち伏せして奪取、監護を始めてしまいました。父は奪取後、審判前の保全処分を取り下げ、 母は、 監護者指定およびその保全処分を申し立てたのです。

抗告審は母が別居してから問題のある監護をしていなかったと判断しました。また、主に母が監護をしていたことも認定し、このような状況の下で長男の監護者を父とすると明らかな違法な奪取行為を追認することになるという理由から、「長男の福祉が特に害されることが明らかといえるような特段の状況が認められる場合に限られる」として、違法な奪取を裁判所が追認する結果を回避するべきであることを明らかにしました。

<福岡高裁 平成20年11月27日>

こちらは、奪取した親に引渡しを命じていない珍しい事案なので、少し丁寧にご説明してみます。

原審は、母への引渡しを認容していました。父が抗告人となり即時抗告していますが、抗告理由は主として以下でした。

離婚訴訟提起に先立ってなされたもので夫婦が親権を有するのであるから、夫婦の一方による子の監護者の指定の申立ては特段の事由がない限り却下されるべきである
原審では、判断の基礎となった別居の原因が抗告人の相手方に対する暴行にあるという点や、抗告人が一郎を強引に連れ去ったという点などでに誤認がある

福岡高裁は、別居のきっかけになったのは父の夫婦げんかにおける暴行であったことを認定したが、父のもとで既に一年半以上監護養育され、そこでの生活にもなじみ、監護養育に特段の問題はないとしました。

奪取については、母が監護をしていたのにその意思に反し、「有形力を行使して、強引に一郎を相手方から引き離した」と認定し違法性を有することは明らかであって、その意味では、これを元の状態に戻すことが正義に適うという側面があることは否定できないとしました。しかし、そのうえで、「本件においては、子の福祉の観点から、係属中の離婚訴訟の帰趨を待つことなく、子らの監護者を夫婦の一方に指定すベき必要性が存するとまではいえないというべきである。そうであれば、本件申立てのうち、子の監護者の指定を求める部分は理由がない」として、母への引渡しを認めませんでした。

原審と抗告審で結論が異なったことは、母と長男の面接交渉も徐々に実のあるものになってきているということが理由になっています。「母子間の交流が完全に遮断された状況にあるとはいえない」としています。

これは奪取が違法であるとしながらも、追認したような結果になっています。

ここで福岡高裁は民法766条の本来の意義についても触れており、条文解釈として素直なわかりやすいものであると思われるので紹介します。

子の親権者ないし監護者の指定の裁判は、本来、夫婦が協議離婚をする場合においてこの点の協議が調わないときや、裁判上の離婚の場合になされることが予定されているのである(民法766条1項、771条、819条2項、5項)。したがって、離婚訴訟が係属中の夫婦につき、民法766条1項の準用ないし類推適用により監護者の指定の審判がなされた場合には、同審判とその後になされる離婚訴訟の判決とで、子の監護権に関し、矛盾した判断がなされることもあり得ることになる。そして、その場合には、比較的短期間のうちに、二度にわたり子の生活環境に急激な変化をもたらすことになりかねない。そのようなことは、子の福祉の観点からして許容しがたいことであるし、また、そのような弊害を回避しなければならないとする余りに、離婚訴訟の判決において、先行する審判の結果にいたずらにとらわれるというようなことになったのでは、これまた到底是認することができない。
 そうであれば、離婚訴訟が係属中の夫婦において、それに先立って子の監護者の指定の審判を求めることができるのは、子の福祉の観点からして早急に子の監護者を指定しなければならず、離婚訴訟の帰趨を待っていることができないというような場合に限られると解するのが相当である。」

 

上記の説明は、当初の連れ去りの問題も関連します。当初の母の連れ去りは違法ではない、その後の奪取が違法だとすると、離婚訴訟では子を何度も環境変化させるのがかわいそうだということからその時点の監護を継続させる方向の判断になりやすい、よってそれも正義に反する・・・ということ、つまり奪い合いが起きる場合いずれもそれで有利になるのはおかしいという判断があったように思われます。

既に単独監護をしている親から奪取する場合、面会中にするか、手荒な方法で奪うくらいしか方法がなくそれをすると面会ができなくなることから、裁判所はそのような奪取は違法として追認をしない実務ですが、上記高裁はこの現状実務の矛盾や問題についても、言及しているように見えます。

19 経済力は親権・監護者の指定においてどう評価されるのか?

経済力は、結果を大きく左右していないことが多いといえます。生活保護受給中でも、監護親となれることは珍しくありません。

通常は、養育費の支払いがあることで経済的に生活ができるのであれば、特に親だけの収入が低いからといって、その親に監護権・親権が認められないという結果になっていません。

20 婚姻の破綻、有責性は親権・監護権の判断に影響するのか?

婚姻の破綻に対する有責性は、親権適格との直接の関連がありません。

不貞行為があったからといってそれで子の監護権が認められないということはないといえます。

しかし、そのような態度が育児放棄といえるような事情があれば親権適格に悪影響があるでしょう。

破綻原因となった暴力や思いやりのない言動があれば、その人の性格を示すものとして、監護者としての適格性において否定的に評価されることがあります。

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