ハーグ条約

子どもが日本に連れ去られた方などのためのハーグ条約の智識

1980年に採択されたハーグ条約は、国境を越えた子どもの連れ去りなどの問題を解決する司法的枠組みの国際条約です。子どもを元の居住国に返還するための手続きや国境を越えた親子の面会交流の実現のための国々の協力について定めています。国際結婚だけではなく、日本人同士の場合も対象となります。子どもを連れて日本に戻ると申立をされてしまう可能性が高いです。子どもが連れられた方はこの条約で子を返還させることができます。

よくあるご相談内容例

  • 夫がお金をくれないので困っており、日本に子を連れて戻りたい・・・
  • 妻が日本に子を連れて行ってしまったので、困っています
  • 日本に連れ去られてしまった子供に面会したいのですが・・・

Advantage | ハーグ条約における東京ジェイ法律事務所の強み

Advantage.01

ハーグ条約に精通した弁護士によるサポート

ハーグ条約上の中央当局の役割は日本では外務省ハーグ条約室です。当事者の話合いによって円満解決を図れるようにこのハーグ条約室では連絡仲介以外に、裁判外紛争解決手続(ADR)機関を紹介していますが、その紹介するADRのひとつのあっせん委員である弁護士が対応します。ADRを普段切り盛りしている弁護士なら、当事者双方の気持ちがえわかり事件対応も円滑になります。

Advantage.02

迅速な事件の処理になれています

ハーグ条約では迅速な手続きが求められます。しかも、申立書類や主張はすべて外国語ではなく日本語で出さないといけません。当事者は日本語の読み書きができないことが多く資料も外国語のものが多いので、英語でのやりとりをしつつ、日本語での裁判資料の準備を迅速にする必要があります。当事務所ではそういった迅速な国際事件処理になれた弁護士が対応しています。

依頼者様との5つのお約束
  • Promise.01 事情を迅速に理解
  • Promise.02 円満解決 話し合いを優先
  • Promise.03 お子さんの気持ちを大切に
  • Promise.04 執行よりも任意の返還
  • Promise.05 日本の
  • 実務家としてのサポート

1 ハーグ条約では、何が定められているのですか?

正式名称は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」といいます。
難しいので、以下「ハーグ条約」といいますね。

これは、海外の多くの国が締結している条約で、子供が国を超えて連れ去られたり、約束の時期を超えて戻さない場合に、その子どもと一緒にいる親に子どもを戻すように命じるための条約です。

もっとも、本来は、そういうことが起こらないように作られたものです。

国境を越えて、一方の親によってもう一方の親の同意を得ないで、子どもが連れ去られたり、留め置かれると、子どもへの悪影響が大きいので、作られています。

具体的には
子どもにとって生活の環境が勝手に大きく変えられてしまう
親族・友人と交流ができなくなってしまう
というようなことが、子どもにとってよくないので、子どもを守るための条約なのです。

そのために、何を定めているかというと、
① 子どもを元の居住国(常居所地国)に返還するための手続き
② 別々の国にいる親子の面会交流実現のための国際協力等

上の①の返還の手続きとありますが、絶対戻さないといけないのか?というとそうではないです。親二人が話し合って元の国に戻さなくてもいいよという和解的な合意ができれば、返還しなくてもよくなります。

子どもが元の国に戻っても、それから離婚訴訟をその国で提起して争ったりするのなら、非常に高い弁護士費用がかかるでしょうし、連れ去られてしまった親の方がその国で子供の親権や監護権をとれないこともありえるでしょう。

だから、複数の弁護士が関与して、話し合いでの解決をしていこうという仕組みもあります。そもそも、これは夫婦の争いで、子どもの親なので争ってばかりいたらよくないからです。

実際、取り合いをされている子どもには、夫婦げんかそのものが迷惑千万なわけなので、なるべく話し合いでの解決を弁護士も努力しています。

2 どうしてハーグ条約ができたのか?

世界的な人の移動や国際結婚が増え、一方の親による子の連れ去りや監護権をめぐる国際裁判管轄の問題(どこで訴訟を行うかという問題)を解決する必要性が生じてきたため、「国際的な子の奪取の民事上の側面」についてこの条約が成立したのです。

3 ハーグ条約の締約国数は?

2019年10月現在で、ハーグ条約を締結している国は世界101か国にも、なります。

米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、韓国、香港・マカオ、ブラジル、ペルー、ロシア、EU諸国などです。

未締約だけれども日本と関係が深い国としては中国(香港・マカオを除く)、台湾などがあります。

4 日本はハーグ条約の締約をいつしましたか?

日本は2014年(平成26年)1月にハーグ条約を締結しました。

ハーグ条約の実施に必要な国内手続等を定める法律として、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(以下「ハーグ条約実施法」)が定められ、同年4月1日から施行されています。
この法律があることで、現実に日本でハーグ条約を運用できるようになりました。

この法律では、日本の「中央当局」が外務大臣となっています。そのため、外務省がいろいろな面で当事者を助けてくれます。

また、弁護士もハーグ条約を専門にやっている弁護士は通常、弁護士会や外務省のセミナーや研修を受け、事件を受ければ外務省と事件関係でのやりとりを行います。

5 ハーグ条約締約によって、日本では何が変わったのですか?

日本がハーグ条約を締結する前は日本から外国に子どもを連れ去られた場合、連れ去られた親は自力で子の居所を探し出し、外国の裁判所に子の返還を訴えなければなりませんでした。それはとても大変なことでした。ハーグ条約のようなルールがないので、頑張っても返還がされるか、わかりません。

それから、海外で生活している日本人が子と一緒に一時帰国しようとしても、日本はハーグ条約を締結していないので、返還が確保されないということから、日本へ一時帰国することができない(裁判官から許可がでない)という深刻な問題もありました。

しかし、日本がハーグ条約を締結したことにより、ハーグ条約に定められた国際協力の枠組みのなかで、子どもが連れ去られた国から子どもを返還してもらうことができるようになり、また国境を越えて親子が面会交流できる機会が確保されるようになりました。また、ハーグ条約による問題の解決が確保されることになったため、日本人が子どもと日本へ帰国しやすくなったということもあります。原則元の居住国に子どもを返還することとしているハーグ条約締結により、子どもの連れ去り等について親が慎重に考えるようになるということも考えられます。

6 外務省は何をしてくれるのですか?

ハーグ条約では締約国に対し中央当局の設置を義務付けていて、日本における中央当局は外務大臣で、実務について外務省領事局ハーグ条約室が担当しています。

子どもの返還や面会交流を実現するために、具体的には、返還や面会交流に関する申請の受け付け、子どもの所在の特定、当事者間の連絡の仲介や当事者間の話合いによる解決の促進、翻訳支援、弁護士紹介制度の案内、面会交流支援機関の紹介等の支援を行っています。

また、外国にある日本の大使館、領事館も、日本人の子どもの連れ去りに関する相談対応や情報提供、ハーグ条約の手続支援等を行っています。例えば、日本国籍の子どもと同居している親の同意のもと、領事が子どもと面会し、子どもと会えない親に様子を伝えることや、安全が懸念される場合に現地関係機関へ通報・支援を要請することなどです。

7 外務省に支援による弁護士紹介とは

弁護士を自ら探すことが難しい方のために、無料で、ハーグ条約室を通じ、日本弁護士連合会(日弁連)が弁護士を紹介しています(弁護士費用は別途かかります)。当事務所の弁護士松野もそこでは紹介対象の弁護士になっています。

8 裁判外紛争解決手続(ADR)とは

裁判外紛争解決手続(ADR)とは、訴訟手続きによらない紛争解決方法のことをいいます。子どもの福祉の観点から、子の連れ去り問題を解決するには、両親が自発的に話し合った結果としての合意により友好的に解決を図ることが、非常に有益と考えられます。

そこで、当事者に話合いの場を与え、公正中立な第三者が、両者の誤解を解いたり、主張の要点を確認して、和解的な解決を模索して、和解を成立させる紛争解決をする制度として外務省では以下のようなADR機関と委託契約を結んでいます(2020年11月現在)。

・第一東京弁護士会 仲裁センター
・第二東京弁護士会 仲裁センター
・東京弁護士会 紛争解決センター
・愛知県弁護士会 紛争解決センター
・公益社団法人 民間総合調停センター(大阪)
・福岡県弁護士会 紛争解決センター

上記のADR機関利用は、原則として申立手数料や合意成立手数料などの利用手数料が無料となっています。ADRの手続きでは、当事者の話合いに、弁護士、心理専門家等から選任された2名のあっせん人が参加します。

子どもの連れ去りでは、通常当事者が別々の国に住んでいるのでADR機関の所在地まで行かなくても、国際電話やスカイプで話し合うことができます。あっせん人やスカイプ利用などの希望については、ADR機関における協議のあっせんの申立てのときに、伝えておきましょう。

9 ADR機関による協議のあっせんのメリット、デメリットは?

メリットは、当事者の意向を尊重しながら話合いを迅速に進めることができることや、裁判手続きにおける和解よりも柔軟な解決を図ることが可能であることです。
デメリットとしては、相手方に話合いの場への出席を強制できない、合意が破られたときに強制執行ができないことが挙げられます。

10 子どもを連れて外国へ行くときに注意すべきこととは何ですか?

一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく外国へ行く場合、ハーグ条約によって子どもを元の居住国に戻される可能性や、刑事訴追を受ける可能性があります。日本では、親が子どもを国外に連れ出すことは、犯罪とはなりません。しかし、国によっては、もう一方の親の同意を得ずに子どもを連れて外国に行くことを刑罰の対象としていることがあり、その国へ再入国した際、誘拐罪で逮捕されることや、ICPO(国際刑事警察機構)を通じて国際手配されることもあり得ます。子どもを連れて外国へ移動する際には、滞在国の法制度を確認し十分注意してください。

11 日本に連れ去られた子どもを取り戻すにはどうしたらよいでしょうか。

日本の中央当局に対し、子どもがもともと居住していた外国への返還を実現するための援助(外国返還援助)を申請することができます。また、中央当局による援助を経ないで、直接子どもの返還を求め裁判所へ申立てを行うこともできます。

12 子どもが日本へ連れていかれたのは確かだけれども、日本国内のどこにいるのかが分かりません。裁判では訴状など相手方に送付する必要があるそうですが、ハーグ条約に基づく子どもの返還や面会交流の裁判はできるのでしょうか?

ハーグ条約では、不法に連れ去られたり、留置されている子どもの所在の特定を助ける制度があります。中央当局はそのための措置をとらなければならないのです。ハーグ条約の実施法である「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」によって、日本に連れられた子どもの居所特定のため地方公共団体等に外務省が情報提供を求めることができることになっています。

なお、子どもの住所が分からない場合には、子どもの返還や面会交流の申立ては、東京家庭裁判所になされることとなり、そこで裁判手続きが進められます。
申立てがなされると、中央当局は、裁判所から子どもや同居している親の住所・居所の確認を求められ、得られた情報を裁判所に開示しますが、裁判所はその情報については、原則として開示しないこととなっています。

13 子どもを日本に連れてきて一緒に住んでいます。外国にいる(元)夫(妻)が子どもの返還裁判を申し立てた場合に、私と子どもの住所が(元)夫(妻)に知られてしまいますか?

日本の中央当局は、裁判所からの求めに応じ、地方公共団体等に情報提供を求め、子どもの所在を特定し裁判所にはその情報を開示しますが、原則として、返還裁判を申し立てたもう一方の親に開示することはありません。

しかし、この返還を命ずる終局決定の強制執行をするために必要な場合など一定の場合には、もう一方の親に、子どもの住所等を開示することがあるでしょう。しかし、和解的解決をするには住所等を明らかにする必要があるでしょうから、隠す必要があるかも冷静に考えたほうがよいでしょう。

手続き中も離れている親との交流は裁判所がするように求めることが多いですし、子を返還しない方向であれ、返還する方向であれ、和解的解決のためにはそういった努力をしたほうがよいことが多いです。

14 子の返還決定手続きとはなんですか?

子の返還決定手続きは、ハーグ条約締約国内にもともとは居住していた16歳未満の子どもを、そこから、日本に連れ出したり、留め置いたりして、申立人の子どもに対する「監護の権利」を侵害する場合、日本で子どもを監護している者に対し、裁判所が「子を元の国に返還しなさい」と命ずるという手続きです。

大事なことは、この手続きが子どもを返還するか否かを判断する手続きであって、誰が子どもの監護権や親権を持つかを判断する手続きではないことです。

早期解決のために、子どもの返還決定手続きは迅速に進めることとされています。

裁判が迅速に進められるため、申立人、相手方共に、返還事由や返還拒否事由について、主張や証拠を整理しておくことが大切です。裁判の準備のため、弁護士へ相談するのがよいでしょう。

また、子どもの返還決定手続きは、申立人が裁判所に子どもの返還申立てすることによって始まりますが、この申立てをすると、子どもの返還決定手続きの間に相手方が子どもを外国へ連れ出すことを防ぐ手続ができます。具体的には、子どもを国外に連れ出すことを禁止する出国禁止命令や外務大臣に子どもの名義のパスポートを提出するよう命ずる旅券提出命令を申し立てることができます。

子どもの返還決定手続きの最中でも、当事者の話し合いにより解決する手段もあります。当事者の同意があれば、調停手続きに入って話合いを行うこともできますし、和解によって解決することもあります。

15 ハーグ条約に基づく子の返還の裁判(返還裁判)が行われる場合、弁護士をつける必要はありますか?また弁護士をつけた方がよいのでしょうか?

返還裁判では、当事者双方が、主張を記した様々な書面や、その主張を裏付ける証拠資料を裁判所に提出することになります。このような書面や証拠資料の作成には、日本の法律に加え、子どもがもともと居住していた国の法律などの専門知識が必要となってきます。

また、ハーグ条約では早期解決のため手続を迅速に進めることとなっているため、的確な主張、立証が必要となります。

このようなことを考慮すると、返還裁判の当事者としては、法律の専門家である弁護士に相談、依頼しないで、そういった書面を作成することが非常に困難であると思われます。よって、専門的弁護士をつけることが望ましいと思われます。

16 ハーグ条約に基づいて子どもの返還を求めて裁判となった場合、その裁判はどこで行われますか。

子どもの返還決定手続きの裁判(第一審)は、子どもの住所地によって決まり、東京家庭裁判所又は大阪家庭裁判所で行われます。 全国の裁判所で行えるわけではありません。

17 子の返還手続で返還が認められるのは、どのような場合でしょうか?

実施法27条で定める4つの返還事由の全てに該当する場合には子どもの返還が認められます。

(返還事由)
①子が16歳に達していないこと
②子が日本国内に所在していること
③連れ去り・留置が申立人の監護権を侵害すること
④連れ去り・留置の時に、常居所地国が条約締約国であったこと

*しかし、裁判所は、上記の返還事由が全て認められる場合でも、実施法28条1項に掲げる①から⑥までに定める返還拒否事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならないこととされています。

(返還拒否事由)
①申立てが連れ去り・留置から1年を経過した後にされ、かつ、子が新たな環境に適応していること
②申立人が連れ去り・留置の時に現実に監護権を行使していなかったこと
③申立人が連れ去り・留置に同意したこと
④常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること
⑤子が返還されることを拒んでいること(子の年齢・発達の程度に照らし,子の意見を考慮することが適当な場合に限る。)
⑥子の返還が人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないこと

*ただし、裁判所は、上記①、②、③、⑤に掲げる事由がある場合であっても、次のような事情を含め一切の事情を考慮して子どもを常居所地国に返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができます。(実施法28条2項)

A 子が申立人から暴力等を受けるおそれ 
B 相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれ 
C 申立人又は相手方が常居所地国で子を監護することが困難な事情
(例えば、申立人がアルコール依存症であることなどが考えられます。)

18 日本から連れ去られた子どもを取り戻すには、どうしたらよいでしょうか?

日本の中央当局(外務大臣)に対し、子どもの日本への返還を実現するための援助(日本国返還援助)を申請することができます。

19 援助決定とは何ですか?

援助決定を受けることで、外務省から一定の支援が受けられるというものです。

まず、返還援助申請や面会交流援助申請をして、ハーグ条約室で、子どもが16歳未満か、子どもがハーグ条約の締約国にいるかなどの事項を審査して、それが充足していると援助決定を行っています。

援助決定が行われると、申請者と子どもと同居している親は、翻訳支援やADR機関による協議のあっせんなどの支援を受けることができます。(援助決定は、子どもの返還、子ども面会交流を決定するものではありません。)

20 日本にいる子どもと面会するにはどうしたらよいでしょうか?

日本以外のハーグ条約締約国にいる親が、日本在住の子どもと面会交流ができない場合には、日本の中央当局に対し、子どもとの面会交流を実現するための援助(日本国面会交流援助)の申請をすることができます。

この申請は子どもとの面会交流ができなくなった時期にかかわらず申請することができます。

子どもの移動はないけれども、一方の親が他のハーグ条約締約国に移動したことにより面会交流ができなくなった場合でも、申請することができます。

また、この申請とは別に、子との面会交流を求めるために日本において家事審判又は家事調停の申立を行うこともできます。ただし、この場合には、外務省の援助は受けられません。

ある程度、面会交流ができる見込みがある段階になったら、こういった日本の家庭裁判所手続を利用することは実効性があるでしょう。

21 外国にいる子どもと面会するにはどうしたらよいでしょうか?

日本の中央当局に対して、子との面会交流を実現するための援助(外国面会交流援助)の申請をすることができます。

22 ハーグ条約における「不法な連れ去り、留置」とはどういうことでしょうか?

ハーグ 条約において「不法な子の連れ去り」とは、
一方の親の同意を得ていないなど、その親の監護権を侵害する形で子どもをもともと住んでいた国から国外へ連れ出すことです。

そして「留置」とは、期限付の約束で子どもを連れて国外へ連れ出し、約束した期限を過ぎても子どもをもともと住んでいた国へ返さないことです。一方の親から事前に外国へ行くことについて同意を得ていても約束した日までに元の居住国に戻らなければ留置になります。

23 ハーグ条約に基づき子どもの返還や面会交流を裁判所に申し立てるにあたり、費用の面で利用できる制度はありますか?

日本の民事法律扶助制度を利用できる場合があります。

この制度は、主として、資力の乏しい方に対し、無利息で弁護士費用、通訳費、翻訳費などを立替える制度であり、原則として分割で返金することとなります。

ハーグ条約事件については、日本の裁判所での子の返還手続、出国禁止命令、強制執行、子との面会交流手続等(示談交渉、裁判外紛争解決手続(ADR)を含みます)にかかる弁護士費用と実費の立替えがされています。

この制度を利用するには、収入等が一定額以下であることなどの要件がありますが、海外在住の外国人の方でも利用することができます。

なお、日本国外での裁判手続等については対象ではありませんので、海外にいる子の返還のためには当該外国の費用援助システムがあればそれを使うことになります。

24 ハーグ条約に基づいて、子どもの返還ができるのはどのような場合ですか?

ハーグ条約に基づいて子どもを返還してもらうためには、ハーグ条約が適用される条件を満たす必要があります。

その条件とは、
①国境を越えて子どもが移動することによって残された親の監護権が侵害されたこと
②子どもがもともと居住していた国と移動した先の国の両方がハーグ条約の締約国であること
③子どもが16歳未満であること
です。

①については、もともとの国の監護に関する法律において、監護権が侵害されたことの立証が必要になります。

②については、子どもが元々居住していた国と移動先の現在居住している国が、子の連れ去りの時や留置の開始時にハーグ条約の締約国である必要があります。いずれかの国が条約の締約国ではない場合はハーグ条約の対象とはなりません。

③では、子どもの年齢が16歳未満とされています。16歳以上ならば子が自分の意思を持っており、その意思は子どもの親や司法機関等も尊重すべきであるという考えからです。

子どもによっては、16歳未満でも返還されたくないとの意思をしっかりと持っている場合もあるので、そのようなときには、返還裁判では、「子の年齢および発達の程度に照らして、子どもの意見を考慮」しなければならないものとされています。

25 ハーグ条約における「子の常居所地国」とは?

ハーグ条約では、常居所地国という用語がよく出てきますが、これは英語ではState of habitual residenceで、とても重要なのです。

通常は、連れ去りとか留置が始まる直前に子どもが住んでいた国が「常居所地国」になります。常居所は、生活の本拠として一定期間生活していた地というような意味で、もし子が連れ去りの前に国をまたいで動いていると「常居所地がどこなのか?」が争点となります。

ハーグ条約の事案ではそこが争点になることは多いのです。生まれてからX国に住んでいて連れ去られたら子どもの常居所地国はX国で間違いありませんが、連れ去り前の1年に日本にもいたしアメリカにもいたということになると、そもそもアメリカが常居所地国であったのか、という点が争点になります。

ハーグ条約では、不法に連れ去られた子をその子の常居所地国に返還するというのが原則です。話合いで解決できず、ハーグ条約による裁判になった場合には、原則として子は常居所地国に返還するように命じられてしまいます。

そもそも常居所地国がどこかということが争いになると、仮にアメリカから日本に連れ去られたと申立人が主張しても、常居所地国がアメリカではないのなら、不法な連れ去りがアメリカから日本にされたことにならないので、返還せよという命令が出ないということになります。

例えば、日本に連れ去られる前の2年間はイタリアに家族で住んでいて、今は父親がアメリカに住んでいるにすぎないなら、アメリカに返還せよという命令がだされることはないのです。

そして、どこが常居所地国と認められるかは裁判所が判断します。連れ去られる前に子どもがいた国が常居所地国になるとは限りません。住んでいた期間やその目的、住んでいたときの状況等のいろいろな事情を総合的に勘案して、裁判所が、常居所地国がどこであったのか判断しますので、代理人の重要な仕事は、そのような事情を裁判所に証拠とともに主張することです。

26 返還裁判で返還が決まった子どもは申請者のもとにもどりますか?

子どもの返還が決まっても、返還されるところは申請者のもとではなく、あくまで子どもの常居所地国ということになります。
ハーグ条約では、異なる言語、文化環境に連れ去られた子どもを一度慣れ親しんできた元の生活環境に戻し、そのなかで、子どもがどこで誰と暮らすか、子どもの監護権は誰が持つのかなど子どもの今後について決めるのが望ましいと考えているからです。

27 子どもを連れて外国に行きます。(元)夫(妻)の渡航同意書は必要ですか?

渡航同意書とは、一方の親が、もう一方の親が子どもを連れて出入国することに同意していることを示す書面のことを言います。日本を出入国するときには、渡航同意書は不要です。が、国によっては、子どもを連れて出入国する際に、渡航同意書が必要となることがあります。

28 子どもを連れて(元)夫(妻)が出国しようとしています。引き留める方法はありますか?

あらかじめ、都道府県旅券事務所に出頭し、子どもの旅券発給に不同意の意思表示を書面で行い、子どもの旅券の発給をさせないことが考えられます。

このような場合、旅券の発給についての両親の同意が推定できないため、通常、旅券の発給は、申請が両親の合意によるものとなったことが確認されてからとなりますので、子どもの旅券発給に不同意の意思表示を行っていた親が「旅券発給同意書」を提出して、やっと子どもの旅券が発給されることになります。

子どもの旅券が既に発給されている場合、子どもを連れて日本から出国する際には渡航同意書の提示は不要であるため、(元)夫(妻)はあなたの同意を得ていなくても、子どもを連れて日本から出国することができてしまいます。

したがって、日本から外国への子どもの連れ去りを防ぐためには、子どもの旅券をきちんと管理しなくてはなりません。

もしも子どもが出国してしまった場合、その確認のためには、未成年の子を持つ親は法務省入国管理局に対し出国・入国の記録の開示を求めることができ、開示請求の日から30日以内に回答が得られます。

29 「面会交流」とは何ですか?

離れていても親子の絆に変わりはなく、別居や離婚で子どもと離れて暮らしている親は、子どもに会いたいという気持ちは自然なことです。面会交流とは子と離れて暮らす親がもう一方の親のもとで暮らす子どもと直接会って時間を過ごしたり、メールや電話でコミュニケーションをとって交流をすることを言います。

外務省のハーグ条約室では、面会交流支援機関の利用や、ソーシャルワーカーの介在の元でのオンライン面会交流(Web見まもり面会交流と呼ばれています。)についての支援を行っています。

30 ハーグ条約の事件で、面会交流について取り決めるときに、注意すべきことは何ですか?

離婚等によって子どもと離れて暮らすことになったとき、同居していない親と子どもとの間の面会交流は親子それぞれの形がありますが、子どもの利益が最も重視されなければなりません。

面会交流についてのトラブルを防ぐために、離婚の際に、面会の頻度、連絡方法や子どもの受渡方法、日時や場所(の決め方)、対面の方法(対面なのかWeb利用か)、宿泊の可否、費用負担を具体的に取り決めておくことが必要です。そして、ルールができたならば、それを離婚協議書等に書面に残すことが重要です。

また、面会交流について話し合いで決めることが困難な場合には、家庭裁判所に「面会交流調停」を申し立てることができます。調停でも話がまとまらなければ、家庭裁判所が面会交流の可否や内容について審判を下すことになります。

私は離婚したいのですが、子を連れて日本に戻ってもよいでしょうか?

海外で暮らしているのに、子を連れて日本に戻るとハーグ条約で「不法」な子の奪取となります。

ハーグ条約では国境を越えて子を連れ去ると原則、元の居住国に子を返還するべきことになっているので、手続きを経て返還命令が出てしまいます。日本に戻ると概ねの居所は外務省の援助で夫にわかって申立てがされてしまいます。

日本人夫婦です。海外での離婚手続きには言葉の壁があり、避けたいです。

日本人ならば夫婦の合意で日本の手続の利用が可能です。

多くの方は日本語が通じる裁判所で離婚手続きをしたいと考えます。夫婦がともにそう思えれば海外の夫婦も日本の離婚調停や離婚協議が利用できます。お互いが代理人を立てて離婚条件を決めていくことができます。

夫が離婚したいと言い、子については共同親権にするというので不安なのですが・・・

元の国の手続きで離婚をし、夫の承諾をもらって日本に帰るべきでしょう。

あなたは夫から離婚訴訟を提起されるのが嫌だから、子どもと日本に戻りたいと思っているようですが、夫の承諾を得ないで子どもとともに日本に戻るとハーグ条約では不法な連れ去りとなりますので注意してください。

子と日本に戻ってきており、夫のいる海外の国にも戻りたくないのですが・・・

日本に滞在し続けるなら、弁護士を介して留置の承諾を得て返還命令を避けるべきでしょう。

離婚を求められているが海外の手続きで離婚したくないので、元の住んでいる国に戻りたくないという場合でも、元の国がハーグ条約の締結国であれば、夫がハーグ条約に基づいて手続きを進めれば返還命令が出てしまうでしょう。

夫の暴行がひどくて日本に逃げてきてしまいました。

ハーグ条約の手続きが開始されると返還命令が出る可能性があります。

夫の暴行がひどくて日本に逃げてきていても、ハーグ条約の手続きにおいて返還拒否事由にあたるほどのDVであるか、また、実際に起きたことを立証できるかによって、返還命令が出てしまうことがあります。