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養育費について

子どもがいるけれど離婚したいとき、養育費はいくらもらえるのか(逆の立場なら「いくら払わないといけないのか」ですね。)離婚した後、きちんと払ってもらえるのか、というのは誰にとっても大問題です。法律相談でも最もよく質問される事項です。
・養育費とは?
・相場は?



・なぜ、親なら養育費を払わないといけないのか。

まず、養育費は、なぜ払ってもらえるのかを考えてみましょう。養育費という言葉は民法には実は出てこないのです。これって不思議ですよね。養育費って離婚の時は大事なことですし、小学生も(私は学校に出張授業にいくのでわかりますが)よく知っていることばです。でも、民法にはこの言葉はないのです。

民法にはその言葉が出てこないのに、なぜ、養育費を一方の親が払わなければならないのでしょうか?

離婚すると、妻と夫の間の相互の扶養義務(相手の経済面の面倒を看る義務ですね。)はなくなります。離婚するまでは、夫も妻も互いに夫を扶養する義務があったので、夫が癌で闘病したら妻は夫の経済面の面倒を看てあげなければいけない、お金がないから離婚しますというわけにはいかないというのは民法の世界のルールです。(え、夫を食べさせる義務なんてあるの?と今、思った方もいらっしゃるかもしれませんね(笑))

子どもとの関係では離婚後の親子関係はどうなっているかというと、民法では、はっきり「親は同居していなくても子の生活費用を払わないといけない!」という条文はないのです。考えてみればそれってあってもよいのに、不思議ですが・・・・

しかし、そもそも、親が子を扶養する義務というのはあって、民法では、直系血族(親子のような関係のこと)に対しては扶養義務(経済面の面倒を看る義務)が、民法第877条第1項に定められています。

ですから、離婚しても親子である以上、生活費を払う義務があるわけなのです。これは親権を取ったかどうかに関係なくある義務なのです。

え、親権がとれていない親と親権をもっている親の扶養義務が同じなの??それって不公平ではないの???というご意見を持った方もおられるでしょう。
確かにそういう意見が出ても当然という感じはします。

(ちなみに、養子縁組の場合も、養親は子を監護教育する義務というのは、民法第820条であります。そのため、離婚してから再婚し、連れ子を養子にした場合、養子の扶養義務、つまり、養子の生活費を払ってあげる義務があるのですね。)。

・離婚するときに、養育費を決めないといけないのか?

実は、平成23年まで、離婚する際に養育費を決めなければいけないという法律はありませんでした。養育費は払わなければならないのに、離婚の時支払う額を決めなくてもよかったわけですから、おかしなことですよね。

実際、たくさんの夫婦がお子さんがいても未だに単に離婚届を出して離婚しているのが日本の現状です。

平成23年の民法改正ではじめて以下のような条文ができました。

民法766条1項

「夫婦が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護に必要な事項は、その協議でこれを定める」

つまり、離婚の際に夫婦が取り決めておかないといけないことに、面会交流・養育費がやっと明文化されたのです。これまで、子供がいても養育費を決めないまま離婚してもよいということだったのは、子どもの保護という点からはおかしいことですよね。子どもの保護という意味では日本の民法にはおかしなことがたくさんありますが、それはまた別の機会に・・。

実際、DVの被害者の女性などはストーカー的行為が怖いとか、離婚を急いでいる女性は養育費について言いだすと離婚してもらえないからという理由で、離婚の際に養育費の取り決めをしていなかった例も多かっただろうと思いますし、今でも、民法の規定に反して取り決めをしていなくてもペナルティがないのでやっておられない方もいるでしょう。

でも、離婚してからでも面会交流のことや養育費の額を決めることはできますので、あきらめないでお子さんのために、きちんと面会をしたり、養育費をもらったり払ったりするべきですね。お子さんはどんなことがあっても、父と母との関係を必要にしています。どのような関係構築がよいか、それは家族の形態や子の年齢によって様々ですが、お子さんの視点から考えてあげることが大切です(これは言うは易し、行うは難し・・・なのですが)。

・養育費は、誰がもらえるのか?誰が養育費を払わないといけないのか?

なぜ養育費を払わないといけないか、それは「親子の間には扶養義務がある」からであることは、すでにご説明したところですが、誰がもらえるのかという点はどうでしょう?

普通はお母さんだろうな・・・・と皆さん思うでしょうが、なぜ子どもはもらえないのでしょうか?15歳なら養子縁組も民法ではできるので、そのくらいならお子さんがもらってもよいようにも思えます。

実際、私の依頼者はサラリーマンの男性も多く、離婚するとき、養育費はきちんと子どものために使ってほしいから子供に直接払いたいという方も多いです。子どもの教育についてきちんと意見が言いたいとか、学費を直接学校に払うなら全額払うというお父様も多いです。また、祖父母がそういうお金をだしてくれるという場合も多いです。(祖父母に余裕があると、最近できた相続税対策にもなる教育信託を設定してくれるという場合もありますが、離婚とこの信託関係では、実はとても問題が多いのです。これも、またの機会に・・・・)

法的には、子を監護している親に、監護していない親が払うのが養育費です。
養育費は、ですから、一緒に住んで子どもの面倒をみている親が、一緒に住んでいない親に払うように請求できるのです

子供が一人暮らしであったりすると、いずれが監護をして経済的に扶養をしているかという点で、支払う方ともらう方を決めます。(離婚騒動が嫌で、家出のように一人暮らしをはじめる10代のお子さんも多く、このお子さんへの養育費の問題は複雑になってしまします。しかし、法的には二十歳をすぎると本人が親に扶養請求をしなければならないのが原則です。もっとも、調停で決めればいろいろな決め方が可能です。)

もっとも、最近は男性も女性も働いて子供を育てるというスタイルの夫婦が増えていますので、離婚においては男性も親権・監護権を欲しいということが増えています。そうなると、調停とか和解離婚において共同で監護するような形態をとる離婚の形もあるので、そういう場合には、どちらがどちらに払うのか?という問題がでています。(そんなことができるのか?と思われる方もおられるでしょう。実際、そういうことは多くはないですが、きちんと代理人がついてお子さんのことを考えて調整すれば可能なこともあります。長い親権紛争よりは、親にも子にも有用な解決です。)

なお、母子家庭・父子家庭についての法律「母子及び父子並びに寡婦福祉法」では、扶養義務の履行の責務が規定されています。この4条では子と一緒に住む親の自立への努力を定めて、5条1項で、母子家庭・父子家庭の親は、「児童の養育に必要な費用の負担その他当該児童についての扶養義務を履行するように努めなければならない。」とされています。これは養育費のことではなくて、同居している親の扶養義務のことなのですが、同居していない親に関しては、2項で、「児童が心身ともに健やかに育成されるよう、当該児童を監護しない親の当該児童についての扶養義務の履行を確保するように努めなければならない。」となっています。これがいわゆる養育費のことになりますね。

この法律がいっているのは、子の監護をしている親は子のために自立しなくてはいけないが、他方の親にも養育費を払わせるように努めなくてはならないということなのです。

でも、アメリカのように給与から養育費が天引きされるような制度がない日本で、任意に養育費を払わない親に対して「払うようにさせなければならない」といっても、ただでさえひとり親は育児と仕事で大変なわけですから、過剰な責任というような気もしますね。

もっとも、すでに調停調書がある場合で、養育費を不払いとしている親の勤務先がわかっていたり、自営業でもきちんとした商売をやっているような場合や資産があるような場合には、強制執行で比較的簡単に養育費を払わせることができることはあります。

当事務所では格安な着手金で、強制執行の事件を承っています。地方の方、海外の方でも利用できますので、養育費支払いがかなり滞っているような場合、時効になる前にご相談ください



・養育費の相場はどのくらい、いくらもらえるでしょうか?

養育費がいくらもらえるか、相場はどのくらいなのかというご質問はよく頂くのですが、相場というのはないのです。ホテルの相場でも、平均でいくらくらいで泊まれるのかというのは質問としておかしくて、狭いビジネスホテルなら相場はいくらかとか、三ツ星なら相場はいくらかと考えますよね。養育費も相場というのを考えるのはおかしくて、自分ならいくらくらいの養育費をもらえるのが相場かというふうに考えなければなりません。

「自分なら」というのは、息子が5歳で娘が9歳、夫の昨年の年収は源泉徴収票で確認したら890万円であった自分が、もし働かなければいくらもらえるのか。パートで200万円の給与年収があったらいくらもらえるのが、相場になるのか、というふうに具体的に質問しないと相場というものは回答できません。

現在の裁判所では、算定表と呼ばれる表を使って、養育費の標準的な金額を出してそれに近い金額で調停の合意をさせようとするのが通常です。

算定表とは裁判所のホームページに掲載されていますが、いくつかの表でケースごとに使う表が異なり、それをみてだいたいの養育費の金額が二万円の幅で決まるようになっています。

下記で表はすべて見ることができます。裁判所の説明では「参考資料」になっていますね。

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

もっとも、調停委員は、調停は協議の場だから合意すればその金額できめるとも言いますので、「この表で決めるの?」「私が欲しい額できめてくれるの?」と、委員の言っていることがわからなくなって当事務所にご相談にこられる方も多いです。

算定表をどう使うかは、次の機会に説明するとして、この疑問についてご説明しましょう。代理人がついている方でも、これがわからないという質問で当事務所にこらえるかたもいます?(なお、当事務所の無料相談は代理人がすでについている方にはご利用いただけないので、そういう場合には、有料になります。)

・養育費は、算定表で決めるのか? 相場の通りに決めるのか? そもそも養育費には、相場があるのか?

この算定表というのは実際に、裁判官が審判という形で養育について決定をする場合に基礎として通常、使っているものなのです。つまり、調停で決められないときにはこの算定表が基礎になって決められてしまうので、ご自分たちもこの表を使って決めてくださいというような形で導かれます。審判ではこの算定表を養育費の決定に裁判官が使うのは弁護士もわかっていますので、それを基礎にしつつ調停で相手の代理人と交渉をして、養育費についての調停合意をするの、が弁護士の通常の活動です。

ですから、お父さんがお子さんをことが大好きで、かつ、年収以外に相続財産があるなど余裕があれば、養育費の算定表では10万円となっているから10万円が相場なのですが、月の養育費を15万円払うというようなことは十分にあります。そういう場合は、面会交流回数を多くしたいお父様、教育熱心で塾費用などを払うのはむしろしてあげたいというお父様に多いです。また、企業経営者などは経済面に余裕があるので、算定表とはかなり異なる金額での合意をすることもあります。

そうやって、算定表より10万円高い養育費が合意されることもあるわけですが、それには調停の中で互いに子どもの教育とか生活をどうしていきたいかということを誠実に話す必要があり、各当事者の代理人の性格や話の持っていき方も重要な要素になるでしょう。養育費の相場というのは、そういう意味ではひとつの参考であるけれども、実際にはお子さんの生活形態、これまでの教育方針といったものや両親の年収以外の懐具合にも影響されて養育費が決まるので、調停や協議できめる場合には、実際には親二人が納得して合意する額になるといえます。

調停が成立しない場合には、審判になりますから、裁判所が決めます。そのとき、算定表をたいていの裁判官が使いますが、やはりお子さんのこれまでの生活や私学の学費、習いごとといった個性にも一定程度は影響を受けることになります。

(なお、そもそも給与年収8000万円というような方もおられるので、年収が高くて算定表には記載がないという場合もあります。そういう場合には算定表は使われません。そのとき、どうやって決めるかは、算定表で決まらない養育費の問題として、後述します。)

・算定表より高い養育費がもらえるのはどういうときか? どうやって相場よりも高い養育費がもらえるのか?

これは、私立中学・高校にいっているとか大学の医学部にいっているといったような場合やアメリカ留学中で学費と生活費を仕送りしているというような場合など、「特別事情がある」場合の養育費は算定表より高くなります

こういう場合には、代理人弁護士がどのような費用がかかっているのかを資料とともに立証しないとなかなかその特別事情を加味した金額で合意できませんし、実際、調停では合意できなくて、審判に移行することが多いです。代理人によっては経験がないせいなのか、審判になると裁判所がいくらに決めるかわからないから、審判に移行させない方がよい、こちらも折れて調停で決めようという弁護士もいるようです

しかし、「審判になると結果はわからないから折れるべきである。」というのはおかしいと思います。裁判所は、一定のルールで特別事情を判断しますし、特別抗告という方法で高等裁判所の判断もあおげます。むろん、裁判官の裁量もあるので、事実認定の判断が異なることはありえますが、養育費や婚姻費用の決定では、ある程度は見通しがもてるはずです。審判手続中に、裁判所が示唆をして「こういう風に裁判所は考えている」という心証を開示しているくださる裁判官も多いです。

当事務所で多いのは審判に移行して調停を成立させるという場合です。このようにしていったんは合意ができないからと審判になったものの、それからやはり調停にもとして調停を成立させることを、我々法律家は、付調停にするという言葉で説明しています。

これには、クライアント側には大きなメリットがあります。というのは、調停成立しないと事件が高裁にまで行く可能性があり、もらうほうも払う方も紛争が長引き弁護士費用もかさんできます。何より、決まらないというのがストレスになります。そこで、今の裁判官にて、妥当であると考えている金額とか決定の基礎としようとしている考え方を明らかにしてもらって、その範囲で調停を成立させるのであれば、審判の決定をもらったのにかなり近い結果をだせますし、短期にきめることができます。

また、この方法では払う方もある程度、協議の結果として納得した金額にできたり、たとえば、ボーナス月に金額を加算して払いやすくするなどの工夫もできます。昨今では、教育費用の信託が祖母から孫に無税でできるという教育資金贈与信託の制度があり、当事務所のクライアントのお子さんはかなり祖父母からこの信託を受けられることがあるので、これをうまく利用して交渉をすることもできます(これは設定される前でないと交渉として使えないので注意しましょう。)

教育資金贈与信託については、信託銀行のホームページに説明があります。ご参考にリンクを張っておきますね。

http://www.smtb.jp/personal/entrustment/management/education/

http://www.lifeplan.tr.mufg.jp/zei/mago/index.html?list=m007_g_mago0001&ad_id=3649&ad_type=3

こういった多角的工夫をしつつ、立証すべきことを立証して事件を進行させるには、実務的に審判を経験している弁護士、裁判官ときちんと対等に話せる弁護士を雇う必要があるといえるでしょう。

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